現代社会で多くの人が感じている「欠乏感」とは、常に自分に何かが足りていないという感覚のことを指す。
たとえば、「もっと収入を増やさなければ」「もっと能力を高めなければ」「もっと美しく、若くならなければ」「人生を充実させるためにいろいろな趣味を持たなければ」「自分をもっと魅力的に見せなければ」など、そうした不安や焦りの背後には常に欠乏感がある。
欠乏感が生まれるのは、今の自分自身を受け入れられていないからだ。しかし、「自分を受け入れる」といった言葉はありがちに見えるかもしれないが、実は誰にとっても重要なこと。これを自己受容というが、多くの人は自己受容ができていない。たとえば、傷つきやすい、動揺しやすい、人に振り回されやすい(振り回しやすい)といった方は、特に自己受容が未熟である可能性が高い。
自己受容ができない背景には、「ありのままの自分を受け入れることは成長を拒む怠慢な姿勢だ」という思い込みがあるのだ。
自己受容がないと欠乏感が強くなる
「ありのままの自分」を受け入れることが自己受容だが、これは自分の嫌なところ、醜いところ、蓋をしたい経験や自分の歴史、思い出したくない過去や人との関係などまで含めて「自分だ」と思えること。
自分を丸ごと受け入れ「それでいい」と思えることが自己受容だ。
自己受容は「0か100か」ではなく、10くらいしかできてない人もいれば、70くらいできている人もいるだろう。つまりグラデーションであり、完璧にできてなくても大丈夫。
しかし、自己受容できているかどうかを自分で把握できていることは大事だ。それができなければ、自分の「満たされない感じ」「もっと成長や変化をしなければ認めてもらえないかのような感じ」から解放されない。いつも不安や焦燥感があり、感情が動揺しやすい状態になる。
そのような心理的な状態になれば、やがて身体にも不調が出てくる。心と身体は深くつながっているからだ。
自己受容(ありのままを受け入れる)は甘い考え方?
「ありのままの自分なんて甘い考え方で、仮に自分で自分を許しても、周りや社会はそんな自分を認めてくれない」と考える人もいるだろう。このような考えは、自己受容を阻む大きな要素だ。
自己受容について別の言い方をすれば、自分だけは常に自分の味方として、自分を導く存在でいるということだ。いわば自分が自分の最高のコーチであり、友達になるような感じだ。そのため、自己受容は成長や変化を拒否し「今の状態にとどまる」という考えではないし、自分に甘くすることでもない。
確かに、ありのままの自分を社会では認めてもらえないかもしれない。現代社会は「変化」「成長」を常に求めるからだ。それでも「自分だけは今の自分の存在を丸ごと受け入れる」「今のままでも何も問題ない」と思えることが大事なのだ。
自分だけは自分の存在を否定しないこと。未熟さや弱さを持っていても受け入れられること。これができるようになると心理的に安定し、社会からの成長、変化のプレッシャーや他人がつくった価値観に惑わされにくくなる。
ここで言っている「ありのままの自分」とは、存在そのものを指している。知識や資格、収入、人間的魅力などの属性は、自分という巨大な存在のほんの一部にすぎない。
たとえば、地球にくっついている富士山もエベレストも、宇宙から見れば大した違いはないように、人間という存在も理性で簡単に把握できるほど小さくはない。身体そのものも自然の結晶であり、理性の枠には収まらない広がりを持っているのだ。
自己受容(ありのままを受け入れる)は成長を拒む態度ではない
「ありのままの自分を受け入れることは、成長を拒む態度ではない」と私は考える。むしろ、自分の心の奥底から湧き上がってくるエネルギーや感情に正直になり、自分なりの成長や活動を求めていく態度だと思う。
しかし多くの人は、他人軸での成長や成功を追求しているのが現実だと思う。他人がつくった価値観、考え方、評価の基準などの中で努力すると、次第に自分の本心とのズレを感じるようになる。それは、たとえば燃え尽き症候群や、うつ、不安やパニックなど、精神的・身体的な問題としてあらわれる。人によっては、感情の動揺を人にぶつける(ハラスメント)ようにもなるかもしれない。
そのため、自己受容した上で心から出てくるエネルギーや本心に従って行動することが大事なのだ。そのような行動は「努力」とすら思わないものになるだろうし、モチベーションが尽きることもない。また、自分を追い込んで疲弊し、心身のバランスを崩すこともないはずだ。
自分の本心を受け入れた上で「もう何も変化や成長が必要ない」と気づくこともあるだろう。
その場合、自分を取り巻く環境や人間関係を、自分が「ありのままで生きられる」ものに整えていくことに気持ちが向かっていくだろう。
まとめ:欠乏感から解放されよう
重要なのは、自分の欠乏感を埋めるために様々な属性を自分に付け加えるのではなく、自分の本心を理解し、自分の存在そのものを肯定することだ。自分をありのままに受け入れられた時、欠乏感は徐々に薄れ、他人と比べることや社会の期待に囚われることも減っていく。これが本当に自由で、豊かな生き方をするための第一歩なのだと思う。
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