「体幹を使うことが大事」ということは多くの場所で聞いたことがあると思います。
確かに体幹を使うことは大事なのですが、だからといっていきなり体幹トレーニングをしても、あまり体の不調が変わらなかったり、かえって過緊張を強めて疲れやすくなることもあります。
大事なのは、いきなり筋トレに走るのではなく、体幹を含めた体の使い方を知ることです。
私は整体と武道を中心にした経験から、体の不調をお持ちの方に体の使い方をよくお伝えしています。指導内容は相手によって変えていますが、その中でも基礎的な部分をプログラム的にまとめていますので、今回は体の使い方と、すでに発信済みの簡単な体操をまとめて整理した記事を書きました。
体の不調や歪みをお持ちの方も、武道やスポーツの動きを改善したい方も、下記の内容は参考になると思います。
体の使い方のポイント:外力を使う
まず、以前の記事にも書いたように、外力をうまく使える体になることが大事です。
(参考:【楽に体を使うポイント】2つの外力を使って心身をリラックスさせよう)
外力を使えなければ、自分の内力(=筋力)に頼ることになり、疲れやすく非効率な体の使い方になります。
また、体の使い方が非効率であるため関節などを傷めやすくもなります。
まず使えるようになるべきなのは、重力と反力です。
- 重力:体が落下する力、体の重さを使って動くこと(ボールの落下)
- 反力:地面からの反発力、体が浮く方向に働く力(ボールのバウンド)
体幹トレーニングにおいても、この力、特に反力を意識して行うことが大事です。
ただ自分の体にだけ意識を集中して動かそうとすると、筋肉だけで動く癖がついてしまいます。また、筋トレした感じも「きつい」「やめたい」という感じになります。
一方、たとえば四つん這いで行うトレーニングなら、地面を手足で押して反発をもらい、その反発をうまく体の中に通すように意識して行うと、外力によって体が「動かされる」感じになります。「動く」ではなく「動かされる」感覚です。
このようなトレーニングでも筋肉はきつさを感じるかもしれませんが、感覚としては「勝手に動かされて心地よい」という感じです。体が地面とつながり、床から体へ、そして体から床へと力が流れていくため、その力の伝達に心地よさを感じるようになります。筋トレはきつくてやめたいものではなく、やるほど面白く心地よい感じになります。
この内容は「支点をどこにつくるか」という問題でもあるかなと思います。動きの支点を体の中につくると、そこを安定させるために強い筋肉の緊張が必要になります。しかし、外力を使える体であれば、支点は地面など体の外になり、体の中の過緊張は必要なくなるといえそうです。
体の使い方のポイント:中心の感覚を濃くする
このように外力を使うためには、体の中で「安定しているポイント」と「リラックスしているポイント」を区別して使えることも大事です。これはやるうちに自然にできる面もありますが、感覚が分からない方、これから取り組む方に向けて簡単に説明します。
外力を使うためには、体は「力を伝達する媒体」になる必要があります。物体でイメージすると分かりやすいですが、たとえばバラバラになった「レゴブロックの山」を一方から押しても散らばるように動き、押す力は反対側にほとんど伝わりません。これはバラバラのレゴブロックでは力が伝わらないためです。しかし、レゴブロックをくみ上げて一塊にすると、簡単に反対側に力が伝わります。
これと同じように、人間の体もフニャフニャに力が抜けていれば、関節部で力が分散してしまいます。たとえば四つん這いで地面を押しても、肘や肩で力が分散して、体幹や脚まで伝わりません。
しかし、レゴブロックを一塊にするように全身をガチガチに固めればいいわけでもありません。体の感覚が弱く不安定な方は、全身を固めることで安定をつくり出そうとして首肩こりや腰痛を常態化させますが、これが間違った体の使い方であることは分かると思います。
体、関節を安定させるのはインナーマッスルであるため、インナーマッスルを使えると力が伝達しやすい体になり、またアウターマッスル(体の表面にある大きな筋肉)は力を抜きやすくなります。安定すべきところが安定していれば、それ以外はリラックスすることができるのです。
そのために大事なのは、特に下記の部位からインナーマッスルを使って安定をつくり出すことです。
- 股関節・骨盤:あらゆる動きや立つ、座るという姿勢の土台の安定、脚の土台
- 背骨:腕から脚へ、また脚から腕へという力の流れを伝える
- 肩甲骨:腕でつくった力を体幹に伝える、腕の土台としての安定
これらの部位が体の中心であり、これらの部位が安定していれば力を効率的に使うことができます。
もちろん他の部位も大事なのですが、まずはこれらの部位から感覚にスイッチを入れ、使えるようにしていくことが大事です。
体の使い方のポイント:簡単な体操で感覚を覚える
これらの部位について、いきなり筋トレをしてもいつもの癖を強化するだけになり無意味です。
世の中の多くの体幹トレーニング、筋トレは、アウターマッスル(体の表面の大きな筋肉)に意識が入りやすい動きになっています。そのため、体幹を鍛えるにしても一般的な筋トレをすれば、インナーの感覚が身に付きにくいのです。
そこで私は、ここまで解説したポイントを意識しやすいようにシンプルな体操を整理しました。他のエクササイズにもある動きかもしれませんが、上記の視点からポイント、やり方を再構成しているため、中身は既存の多くのエクササイズとは別物です。
①肩甲骨の体操
肩甲骨で「地面を押す」ことを覚える動きで、基礎中の基礎です。とても単純で慣れると何でもないのですが、多くの方ができません。肩甲骨の前後(床ー天井方向)の動きがとても小さくなっているのです。
これができるほど、地面からの反発を地面から受け取りやすくなります。
②股関節の体操
股関節を「丸める・反る」運動です。多くの方は、背骨(背中の筋肉)を使って骨盤を動かしてしまいます。しかし大事なのは股関節を軸に骨盤を動かすことです。
股関節を動かすには、腸腰筋(お腹のインナーマッスル)や内転筋(内もも)、ハムストリングス(もも裏)等の筋肉のコントロールが必要で、このシンプルな動きでこれらの感覚を覚えます。
股関節が安定することで、地面からの反発を脚からもらいやすくなります。
③背骨の体操
これらを組み合わせた背骨の運動です。腕、脚からの地面からの反発の角度を変えながら行うことで、勝手に背骨がウェーブ状に動きます。自分で背骨を動かすという感覚ではなく、反力によって背骨が動かされるという感覚が出てくるといいです。
※下記の動きに、本来は前後(頭方向とお尻方向)の動きが加わります。
まとめ
今回紹介した内容は、深谷道場式体幹トレーニングの基礎中の基礎です。
これをやると体の感覚、インナーマッスルのコントロール、姿勢のコントロールがよくなり、普段の生活や運動時の疲労、負担が減ります。
きつい運動ではないのですが、体の内側や外力を使えないとうまくできないようになっているため「できない」と感じても、工夫しながらやることをおすすめしています。
このようなシンプルな動きから、徐々に複雑な動きや、移動を伴う動きなどにつなげていきます。ただ無理して上のステップに進む必要はなく、基礎の動きをやりこむだけでも十分身体が整います。
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