「自分がない感じがする」
「他人の言動にいちいち振り回されて、一人になるとドッと疲れる」
「なぜかいつも過剰に頑張ってしまい、燃え尽きそうになる」
「他の人より、人一倍傷つきやすい気がする…」
もしこのようなことを繰り返し感じることがあるなら、それは性格のせいなどではないかもしれません。
その根本的な原因は、私たちが生まれてからこれまでの経験、特に幼少期の環境によって形作られた、脳の「配線」や無意識の「クセ」にある可能性があります。
この記事では、脳科学を参考に、なぜこうした生きづらさが生まれるのかを解説します。
そして、その解決策としての「脳の配線を、自らの手で育て直す」ための非常にパワフルな方法が「瞑想」と「ボディワーク」であること。そしてなぜ、どのように効果を発揮するのかを、詳しく解説します。
この記事の内容を実践することで、自分を責めるのをやめ、新しい自分に出会うことができるかもしれません。
前提:大人の脳も育て直すことができる
この記事の最も大切な前提からお伝えします。
私たちの脳には「可塑性(かそせい)」という、驚くべき性質があります。これは、脳は大人になってからも、経験や学習によってその構造や機能自体を変化させることができる、ということです。
脳はコンクリートで固められた建物ではありません。
常に環境の変化に適応する植物のようなものなのです。
瞑想やボディワークは、この脳の可塑性を最大限に利用するための「道具」です。
これまで無意識に生い茂っていた思考のクセや、荒れ果てた感情の枝を、瞑想やボディワークを活用して、意識的に手入れしていくことが可能なのです。
手入れする習慣ができると、思考や感情に流されず、ストレスを感じにくくなります。
さらに「自我」をしっかりと育てて「私は私」という心の芯を強くしていくこともできるのです。
1:瞑想 :「心の筋トレ」で「自己・自我」を支える筋肉を鍛える
一般的に「心を無にする」と誤解されがちな瞑想ですが、ここで説明するのは「マインドフルネス瞑想」です。JINENボディワークでは「雲の瞑想」ともいいます。
これは、
- 今この瞬間に、価値判断をせずに、注意を向ける
- 頭の中で勝手に思い浮かんでくる言葉やイメージを、雲を眺めるように離れて感じる
という、科学的にも効果が実証されている心のトレーニングです。
効果①:「自分の感情がわかる」ようになる「身体の声」を聞く訓練
どんなことをするの?
「ボディスキャン」を想像してみてください。静かに座るか横になり、意識を足のつま先から頭のてっぺんまで、ゆっくりと移動させていきます。ただ「今、ふくらはぎが張っているな」「お腹が温かいな」「心臓がドキドキしているな」と、身体の各パーツで起きている感覚を、良い悪いの判断をせず、ただ観察するのです。
なぜ、これが効くの?
この実践は、私たちの脳の中でも、身体の内部感覚を司る「島皮質(とうひしつ)」という部分を直接的に鍛える行為です。この「身体の声を聞き取る能力」は専門用語でインターセプション(内受容感覚)と呼ばれ、感情を認識する土台となる非常に重要な機能です。
たとえば「自分の感情がわからない」という状態は、多くの場合、この脳と身体をつなぐ通信インフラが、過去の経験から機能不全に陥っている状態です。瞑想は、その最も根本的な部分にアプローチし、錆びついた通信インフラを修復・強化してくれるのです。
どんな変化が期待できる?
続けていくうちに、
「あ、今、胸がザワザワする。これが『不安』という感覚か」
「お腹の奥がじんわり温かい。これが『安心』か」
と、自分の感情が、身体のどの部分で、どんな感覚として現れるのかが、少しずつ分かるようになります。これは、他人の評価や「こうあるべき」という思考から独立した、揺るぎない「自分だけの感覚」という土台を築くための第一歩です。
効果②:「考えすぎ」から抜け出し、影響されにくくなるー脳の「自動再生」を止める訓練
どんなことをするの?
まずじっと座って呼吸や体温、拍動(脈のどくどく感)など、身体感覚に注意を向けます。しかし、すぐに心は「昨日のアレ嫌だったなあ」「夜ごはんどうしよう」「明日の仕事がストレス」など、過去の後悔や未来の不安へと迷子になります。
瞑想の核心は、この「心が迷子になった」事実に気づき、「ああ、考えていたな」とありのままを認め、そしてまた、注意を身体に戻す、この繰り返しにあります。
なぜこれが効くの?
これは、脳の「司令塔」である前頭前野(PFC)を鍛える、最高の筋トレです。 私たちの脳には、ぼーっとしている時に「私はダメだ…」「あの人にどう思われただろう…」といった自己に関する物語を自動再生するDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)という回路があります。
「考えすぎ」の状態は、このDMNが暴走している状態です。 瞑想で「気づいて、戻す」を繰り返すことは、司令塔である前頭前野が、DMNの自動操縦に介入し、「今はその物語は置いておこう」と、意識的に舵を取る練習になります。
どんな変化が期待できる?
思考と自分自身との間に「スペース(心理的空間)」が生まれます。以前は思考と一体化し、不安な考えが浮かぶと即座に不安に飲み込まれていたのが、「ああ、今、『私はダメだ』という思考が浮かんでいるな」と、思考を客観的に観察できるようになります。
このスペースこそが、「自他境界」を強くする鍵です。他人の言動や場の雰囲気に影響されそうになっても、そのスペースのおかげで、「これは相手の問題だ」「私は今、こう感じている」と、一呼吸おいて、自分を保つことができるようになるのです。
2:ボディワーク ―「身体という名の家」に帰り、安心感を育む
ボディワークは、身体の動きや感覚を通して心にも働きかけるアプローチです。
思考や理屈を飛び越え、私たちの最も原始的な記憶が刻み込まれている「身体」そのものと対話することができます。
効果①:根本的な安心感と「自分はここにいる」感覚を取り戻す
どんなことをするの?
例えば、ボディワークでゆっくりと手足を伸ばす時「どこまで伸ばせば正解か」ではなく、「どこまで伸ばすと心地よく、どこからが痛いのか」という、自分の身体の内側から聞こえる声に耳を澄ませます。また、地面にしっかりと足がついている感覚、身体が重力に支えられている感覚を、じっくりと味わいます。
なぜこれが効くの?
過去のストレスや傷つき、嫌な思いをした経験などから、私たちの神経系は、常に「戦うか、逃げるか」の臨戦態勢(交感神経が優位な状態)に陥りがちです。 ゆっくりとした意識的な動きや深い呼吸は、この興奮した神経系を鎮め、リラックスと回復を司る「副交感神経」のスイッチを入れます。これは、脳に対して「もう警報は鳴らさなくていい。ここは安全な場所だ」というメッセージを、言葉ではなく、身体の感覚を通して直接送ることになります。
これは「身体という名の家」に、意識を「帰宅」させることでもあります。思考の世界に避難していた意識を、今ここにある身体の感覚へと呼び戻し、「自分は、この身体の中に確かに存在している」という、最も根源的な「自己」の感覚を育てます。
👇️参考記事:「ホーム(自分の中にある自分の居場所)」という身体感覚
どんな変化が期待できる?
漠然とした不安感や焦燥感、揺らぎやすさが減り、心が穏やかになります。
そして何より、「自分はここにいていいんだ」という、揺るぎない安心感が、身体の深いレベルから湧き上がってきます。この身体的な安心感が、心理的な自己肯定感の土台となります。まず自分の身体というテリトリーが安全だと感じられて初めて、他者との間に健全な境界線を引くことができるのです。
効果②:「傷つきやすい」行動パターンを、物理的に書き換える
どんなことをするの?
ボディワークでは、普段使わないような、非日常的な動きを試みます。例えば、ストレスを感じると無意識に肩をすくめて呼吸が浅くなる人が、意識的に肩を下げ、胸を開いて深く呼吸するという、これまでとは逆の身体の使い方を学習します。
なぜ、これが効くの?
私たちの脳の中には、「ストレス → 肩をすくめる」といった、長年の経験で強化された思考と行動のクセ、いわば森の中にできた「獣道」のような神経回路が刻まれています。
ボディワークは、この獣道の隣に、意識的に新しい小道を切り拓く作業です。
新しい身体の使い方を繰り返すことで、脳の中には文字通り、新しい神経回路が作られます。脳は、身体の経験を通して「ストレスを感じても、固まる以外の選択肢があるじゃないか!」ということを物理的に学習するのです。
どんな変化が期待できる?
これが、「傷つきやすさを変える」ことの核心です。「傷つきやすい」とは、特定の刺激に対して、自動的に古い防御プログラムが発動してしまう状態といえます。
ボディワークを通して、身体レベルで「自分にはもっと多くの選択肢がある」ことを知った人は、心理的にも柔軟性と強さを身につけられます。他人の批判的な言葉に、以前は自動的に縮こまっていたのが、スッと背筋を伸ばして、落ち着いて対応できるようになるのです。
おすすめのワーク
さて、ここからはリラックスボディラボ会員の皆さん向けに、この記事と関連したボディワークとその考え方を簡単に説明します。
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