【意思決定とは】テクニック以前の「神経の安定」が大事な理由と方法

コラム

正しい意思決定を行うことは、ビジネスの現場でも個人の人生や働き方の上でも、とても大事なことだ。そのため、世の中には正しく意思決定を行うためのテクニックや知識が多く存在するが、あまり試みられないのが「自律神経が安定しているかどうか」という点である。

自律神経は、私たちが思考や判断を行う以前の「ニューロセプション」という段階で、今置かれている状況が「安全か、危険か」を察知している。危険なら交感神経が興奮し「逃走・闘争モード」になり、それ以上になれば「凍結モード」になり、思考停止する。安全だと察知されれば、不安や焦りによって惑わされることなく、健全に思考、判断できるのだ。

私は、ビジネスのスキルではなく、身体のあり方や感性、直感、身体知を高める方法を提供しているため、この視点から意思決定を解説する。

意思決定とは?その基本的なプロセスと重要性

意思決定の基本的な定義

まずは基本的なところから押さえよう。

意思決定とは、複数の選択肢の中から最適な行動や解決策を選び取るプロセスだ。個人の仕事や日常生活の小さな場面での選択も、企業や組織での高度で戦略的な選択も、私たちが最後は意思によって決定している。何らかの選択肢がある場面であれば、必ず人は意思によってどれかの選択肢を選ばなければならない。

そのため、正しい選択をするためには、そのための知識や方法を知っておくことは確かに大事だ。意思決定の質は、個人や組織の運命を左右するといえる。

意思決定のステップ

意思決定は、一般的には次の4つのステップで構成される。

  1. 情報収集:必要な情報を集め、選択肢を理解する。
  2. 選択肢の評価:各選択肢のメリット・デメリットやリスクと成果を比較。
  3. リスク分析:選択肢に潜むリスクを評価し、最小限に抑える方法を考える。
  4. 最終判断:最も適切な選択肢を決定し、実行に移す。

しかし、この大前提にあるのが、選択する意思決定者に「自律神経の安定」による安心感があるかどうかだ。

意思決定と自律神経の重要な関係

技術やスキルよりも重要な「安心感」

意思決定を正確に行うためには、技術やスキルの面だけでなく、意思決定者が安心感を持ち、リラックスしていることが不可欠だ。

多くの場合、意思決定の技術的な面ばかりが注目されるが、実際には自律神経の安定がその根底にある。この点はあまり知られていないが、自律神経のバランスが整っていなければ、どれほど高度なスキルを持っていても、最適な判断を下すことは難しくなる。

自律神経は、交感神経と副交感神経から成り立ち、ストレスやリラックスの状態を調整する役割を持つ。意思決定は大きな決断になるほど、ストレスを感じるものだろう。それゆえ、意思決定者は不安や迷い、焦り、緊張と戦うことになる。

不安定な自律神経が意思決定を誤らせるリスク

自律神経が不安定な状態では、意思決定が過度にリスク回避的になったり、悲観的な方向に傾くことがある。不安やストレスが強く交感神経が優位な状態では、選択肢を誤りやすく、慎重になりすぎたり、反対に焦って選択を急ぐことが起こりがちだ。

これらのリスクは、特に重要な場面での意思決定において問題となる。リーダーや経営者が緊張や不安を抱えていると、組織全体にネガティブな影響が及ぶ可能性がある。また、人生の長い期間で人生を厳しいものだと捉え、人生観が「生き残り・生存」に偏って形成されていれば、悲観的な選択を行うことになる。

したがって、意思決定の際には、技術的な能力以上に、自律神経を安定させた安心感のある状態を作ることが成功の鍵となる。

では、どうしたら意思決定というストレスを感じる場面で、安心感を持つことができるのが。その鍵はポリヴェーガル理論にある。

ポリヴェーガル理論と意思決定:ニューロセプションの役割と鍛え方

ポリヴェーガル理論とは?

ポリヴェーガル理論は、自律神経が感情や社会的行動、ストレス管理にどう影響を与えるかを説明する理論だ。特に、腹側迷走神経系がリラックスや安心感、社会的交流に深く関わることが示されている。この理論では、私たちの自律神経系が3つの異なるモード(腹側迷走神経、交感神経、背側迷走神経)を持ち、それぞれが状況に応じて働くとされている。

  • 腹側迷走神経系:安全でリラックスした状態を保つモード。
  • 交感神経系:ストレスや危険を感じたときの「戦うか逃げるか」反応。
  • 背側迷走神経系:強い恐怖や絶望感を感じたときの「凍りつき反応」。

もっとも安心しているときは、腹側迷走神経系が優位に働いている。そして、緊張や恐怖を感じると交感神経系優位の状態になり、それ以上の生存の危機などを感じる状況では、背側迷走神経系が優位に働く。

現代人にとって「生存の危機」のような状況は非常に稀だが、普段から緊張状態が続いていたり、トラウマ体験をしていたり、慢性的にストレスを蓄積していれば、身体は背側迷走神経系優位にもなる。

ニューロセプションと意思決定の関係

ニューロセプションは、自律神経が無意識に「安全か危険か」を感知するプロセスだ。このプロセスが意思決定において重要な役割を果たす。安心感を持つと、より前向きで積極的な意思決定が可能になるが、不安やストレスを感じると防御的で消極的な判断に陥りやすくなる。

ニューロセプションは自律的に働くため、意思決定を冷静に行うためには、この安全感を強化することが必要だ。意思決定の際にリラックスし、心身が安全であると感じることで、リスクを冷静に評価しつつも積極的な行動を選択できる。繰り返すが、これはテクニック以前の問題であり、テクニックや知識でカバーできるものではない。身体的な問題なのだ。

ニューロセプションを鍛える方法

ニューロセプションを強化し、自律神経を安定させるためには、環境の調整や体のリラックスが重要だ。ゆっくりとした呼吸法や瞑想のほか、以下のような身体感覚を用いたアプローチが有効だ。

  • ゆっくり丁寧に身体を感じながら動かす:ヨガや武術のように、体を意識して動かすことで、自律神経のバランスを整える。体の重さや地面からの反発を感じることで、リラックスが促進される。
  • 身体の自然な反射を感じる:意識的に体をコントロールするのではなく、反射的な動きに委ねることで、緊張を解放し、自律神経がリセットされる。

こうした方法を活用することで、腹側迷走神経系が活性化し、ニューロセプションが強化される。結果として、意思決定の際の冷静さと安定感が高まる。このようなメソッドは、私が運営する「ひらめき兵法塾」でも取り入れており、身体感覚を大切にしながら、自律神経のバランスを整えることを目指している。

意思決定を正確に行うための自律神経の整え方

身体知を高め、身体感覚を活用する

身体知とは、感覚や身体の動きから得られる無意識的な知識だ。たとえば、周囲の環境や他者から適切に情報を受け取り、体を自在に操ることが含まれる。人間は、思考や感情だけでなく、豊かな感覚と機能を持つ身体的な存在でもある。身体が「自然の結晶」であるという視点に立つと、身体が貧しい状態か、豊かな状態かによって、思考や感情も大きく影響を受けることがわかる。

たとえば、創造的なインスピレーションを得るには、豊かな身体知が不可欠だ。体が健全であると、直感やひらめきが生まれやすくなるため、意思決定においても、身体知が豊かな人はより正確な判断を下すことができる。

身体感覚を活用した意思決定

意思決定の際に、身体感覚を活用することは非常に有効だ。体がリラックスしているとき、直感や判断力が冴えるのは、身体知が十分に働いている証拠である。身体感覚を通じて得られるフィードバックを活用するために、ゆっくりとした動きを日常に取り入れることが推奨される。

  • 地面の感覚を感じる:足の裏で地面をしっかりと感じ、自分の体がどのように支えられているかを意識することで、安心感を取り戻す。
  • 身体の重さを感じる:体の重さがどのように地面に伝わっているかを感じることも重要だ。座っている時や立っている時、どの部分が最も強く圧力を感じているのかを意識することで、緊張を和らげ、リラックスした状態に近づくことができる。
  • 身体の反射を活かす:脊髄反射のように、自分の意思によるコントロールを超えた自然な反応に従って動くことで、体の動きがスムーズになり、無意識の緊張を解放できる。

このように、身体感覚を日常的に活用することで、意思決定の際にリラックスした状態を保ちやすくなる。特に、地面とのつながりや体の重さを感じることは、自律神経のバランスを整える上で重要だ。私が運営する「ひらめき兵法塾」では、こうした身体感覚を重視したトレーニングを通じて、心身のリラックスと意思決定力の向上を図っている。

まとめ

  • 意思決定には技術的な能力だけでなく、自律神経の安定が不可欠。多くの場合、技術的な側面ばかりが注目されるが、リラックスした状態で判断するためには、まず安心感を感じられる心身の状態が必要である。
  • ポリヴェーガル理論ニューロセプションに基づく自律神経の整え方を取り入れ、リラックスした環境と身体感覚を大切にすることで、意思決定時の冷静さと正確さを保つことができる。
  • 豊かな身体感覚を養うことで、インスピレーションや直感が強化され、意思決定の質も向上する。

知識やテクニック以前の、自律神経から安定させることが質の高い意思決定のカギとなる。また、この視点から生き方そのものを問い直すことで、よりよく生きるきっかけになるだろう。

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