私の体の使い方の指導で大事にしているポイントがいくつかありますが、その1つが外力をうまく使えるようになることです。
そもそも人の体は、自分の筋力(いわば内力)によって動かすか、それ以外の力によって動かすか、の2つの動かし方があります。実際にはどちらか一方のみということはなく、たとえば筋力8割、外力2割、といった形で運動しています。これは、体が止まった状態でも同じです。座りっぱなしであっても筋力と外力を使っています。
そして、この外力には大きく2つのものがあります。1つは重力であり、もう1つは地面からの反発力(反力)です。他にも運動によっては遠心力、摩擦力、体の張力、相手からもらう力などいろいろありますが、日常動作においては、主に重力と反力が意識できれば十分でしょう。
このように書くとややこしい、自分とは関係がない、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はすべての人に関係があります。
特に、体の緊張が強い、体を傷めやすい、疲れやすい、肩こりがひどい、といった方は、この外力をうまく使えてないケースが多いです。
そこでこの記事では「外力を使う」とはどういうことなのか、簡単に解説します。
外力とは
重力と反力
さて、ここでの外力についてもう一度まとめると、重力、つまり体が地球に引っ張られて落下する力が1つです。これは自分の意思と関係なく、常に体に働いています。そして無意識のうちにその重力に負けないように姿勢を維持したり、運動したりしているものです。常に働いているために、意識しにくくなっているのが普通です。
そして、この重力の関係といわば表裏一体で生じるのが反力、つまり地面からの反発力です。私たちの体は常に地球に引っ張られているのですが、反力がなければ永遠に地面の下に刺さり続け、地球の中心まで向かってしまいます。私たちが地面に埋まらずにすんでいるのは、重力(↓向きの落下の力)と地面からの反力(↑向きのつき上げる力)が釣り合っているからです。
すべてのものは、このように重力と反力が釣り合うことで、その場に留まっていられます。
人間の体はしなやか
ただし、私たちの体は家や家具とは異なり、固まった1つの物体ではありません。
約200個の骨、260以上といわれる関節、約600個の筋肉があり、それ以外にも内臓や感覚器など多くの組織が結びついたとてもしなやかで柔らかいものです。
そのため、この柔らかい私たちの体が「じっとしていられる」ためには、ある程度の筋力で体を支え、地面にぐしゃっと押しつぶされないようにしなければならないのです。
感覚や脳の働きの問題
この「ある程度の筋力で体を支える」というのがポイントです。
感覚や脳の働きが衰えると、重力と反力という関係に対して、体を正しく使うことが難しくなります。本来なら「やじろべえ」のようにバランスをとって最小の力で立つこともできるのですが、それができないと、全身を緊張させてあたかも家具や家のように1つの物体としてまとめ、安定しようとしてしまいます。
しかし、人間の体は常に筋肉を緊張させていられるようにはできていません。そのため、緊張が続ければ疲労、血流障害、筋肉がかたくなる、自律神経の働きが乱れる、正しい動きや姿勢ができなくなる、といった多くの問題につながるのです。
逆に、感覚、脳の働きをトレーニングすることで、外力を効率よく使って体を支えられるようになります。誰でも常にリラックスし、疲れにくく、効率がいい動きができるようになるのです。
感覚や脳から体の使い方を見直す
現代の生活では、多くの人が運動不足であり「動物」として十分な運動をしていません。運動不足はさまざまな問題を引き起こしますが、体から受け取る感覚の情報が少なくなるために、感覚、脳の働きが衰えやすいというのも問題です。
脳は、姿勢の維持を主に脳幹という本能的な働きを担う部分で行っています。脳幹は身体から感覚の情報、つまり「体が傾いている」「地面がデコボコ」「体が回転している」などを受け取り、それを自動調整するように働きます。そのため、しっかり脳幹が働いていれば、本来は姿勢は歪まないし、姿勢の維持に意識を割く必要はないのです。
もし正しい姿勢をするのに常に「背筋を伸ばそう」「肩の力を抜こう」などと意識しなければいけないようなら、それは脳幹がしっかり働いていない可能性があります。
そのため、リラックスできて疲れにくい、楽にパワフルに動ける体を維持発展させるには、感覚、脳からアプローチしていくことが大事なのです。
外力に意識を向けて運動すること
そのためには、多様な動きをする運動(ダンスや武術など)をすることもいいですし、他のスポーツでもいいです。
ただし、大事なのは外力に意識を向けて運動することです。
具体的には、
- 体の重さに意識を向けて動く
- できるだけ力を抜いて動く
- 地面を感じながら動く
- 地面からの反発を感じて動く
- 反力が地面から体の中を通り、頭の上に抜けていく感覚を意識する
というものです。
逆に「ここの筋肉を使おう」「ここの筋肉に効かせよう」という意識の仕方は、トレーニングの一部として行うならいいですが、それ以外の場面(日常生活のほとんど)では意識しない方がいいです。このような内へ内へという意識は過緊張の要因になります。
私が行っているオンライン教室では、このポイントを伝えながら簡単な体操をお伝えしています。誰でもポイントが分かれば、普段より筋力に頼らず、リラックスして動けるようになります。
リラックスが身に付けば、心身が整いやすく疲れにくくなるため、ぜひ意識して習慣にしていきましょう。
コメント