自然に逆らう動き、自然に沿う動き
ほとんどの現代人は、知らず知らずのうちに「不自然な動き方」を身につけています。
筋力だけに頼って動いたり、内側に力をこめて体を固めたり、外力(重力や地面反力)に逆らって動こうとしたり・・・
これらは一見「頑張っている」ように見えて、実は体を壊す方向に向かっています。
人間の体は、重力・反力・慣性などの自然の力学的法則に従うことで、最も効率よく動くようにできています。
その法則に沿って動くと、筋力に頼らずとも大きな力を扱え、余計な緊張が抜け、リラックスしたまま力強く動けるようになります。
JINENボディワークでは、この「自然の法則に沿った動き方」を、古武道をはじめとする身体文化の知恵と、現代の生理学・神経学の知見をもとに、6つの原則にまとめています。
それが、
「上虚下実」
「全身の連動(つながり)」
「無心になる」
「中心から動く」
「重心のコントロール」
「円(遠心力や体の「てこ」)」
です。
これらを身につけることは、
- 日常動作が楽になる
- 身体知が高まり、知的パフォーマンスが上がる
- スポーツ・ダンス・武道などあらゆる動きの質が向上する
といったことにつながります。
その6つの原則を、ここで詳しく解説していきましょう。
1. 上虚下実:力を抜いて反力を使う
上虚下実とは、ある体の使い方によって、上半身の無駄な力を常に抜けるようにする姿勢です。
それは地面反力を【地面→足裏→股関節→背骨→頭(と腕)】という流れで体に通すことです。

下から上へとまっすぐ力(反力)が通ることで、上半身が軽く感じられ、無駄な力を抜くことができます。また、頭が天へ突きあがるようになり、首の力が抜け、頭のポジションが適正化します。
これがボディワークの一番基礎となる体の使い方です。
これを、まずは立つ、座るといった基本姿勢でできるようにし、次第に動きの中でも維持できるようにします。
神経学的には、小脳と前庭系が重力方向を検出し、安定姿勢を制御しています。
ここが整うと、体は「地球の力(重力)」を借りて動くようになります。
🔹キーワード:重力・反力・足裏の感覚・グラウンディング
🔹日常例:立ち仕事の疲労軽減、歩行時の安定感、呼吸の深まり
2. つながり(連動):全身をひとつにつなげて使う
現代人の体は、パーツごとにバラバラに動きやすいです。
腕だけ、脚だけ、首だけ・・・局所的に動かすことは効率が悪く、痛みを生むことも多い。
つながりの原則は、全身をひとつの連鎖として動かすことを意味します。
骨格・筋膜・神経系は本来、すべて連続体として機能しており、ある部位の動きは、他の部位へと波のように伝わっていきます。
この運動連鎖を活かすと、力を伝える経路がスムーズになり、最小の力で最大の出力を得られます。反射による自然な連動も活用できます。
神経学的には、感覚統合(視覚・触覚・固有覚)によって「体の全体地図(ボディマップ)」が形成される段階に対応します。
この全身の「つながり感覚」があると、思考や感情のバラつきも減り、「私は私」という統合された感覚が育ちます。
🔹キーワード:連動・筋膜ライン・波動・運動連鎖
🔹日常例:歩行・スポーツ・演奏・会話の流れ
3. 無心:自然な反射と流れに任せる
「ちゃんと動こう」
「いい姿勢にしよう」
などと思うほど、体は固まって不自然な動きになります。
意識でコントロールしようとするほど、外力に任せた大きなエネルギーを活用したり、無意識下での体の自動制御を邪魔してしまいます。かえって非効率で無駄な動きになりやすいのです。
ここでの「無心」とは、意識的な体のコントロールを最小限にし、外力による力の流れや、体の自動調整の働きに任せることです。
人間の動作の多くは、脳幹や小脳による反射・無意識制御で成り立っています。
たとえばバランスをとる、転倒を防ぐ、呼吸を整える・・・これらは考えるより先に起こります。
「無心で動く」というのは、決して何も考えないことではなく、身体の知恵を信頼して、意識の邪魔をやめるということです。
これにより、余分な緊張が抜け、動きが流れるようになります。
🔹キーワード:自動化・反射・フロー・安心モード
🔹日常例:プレゼン時の緊張緩和、運動時の集中、瞑想状態
4. 重心:重力を味方につける
体を自由に使うためには、体の重さを合理的にコントロールすることが大切です。
一般的には筋力を増やすことで、よりよい動きを身につけようとする傾向があるようです。
しかし、私たちが動くときのエネルギーは、あらゆる物体と同じく力学的な原則にのっとって生まれます。つまり、質量(重さ)と速さによって、運動時に生まれるエネルギーの大きさが決まります。
そのため、筋力の強さ以上に、動きの中で「いかに自分の体の重さを合理的に使うか」が大切になります。筋力は、その補助をするものだと考えましょう。
重心コントロールは、体の動きをより発展させる柱です。これを自在に移動・制御できる人は、どんな動作も安定し、筋力以上の大きな力を発揮できます。
神経学的には、小脳と基底核が「重心移動と足圧中心(CoP)」の関係をリアルタイムで最適化しています。
これにより、動きの方向を意識せずにコントロールできるようになります。
さらに、武道の世界にはこの「誰もが持つ体の働き」を超えた、よりレベルの高い重心コントロールの技法があります。私は、これを一般向けに再構成した運動法を指導しています。
🔹キーワード:重心移動・バランス制御
🔹日常例:転倒防止、歩行・ジャンプ・打撃動作の安定
5. 中心:末端優位の動きから、中心優位の動きへ
この「中心」とは、丹田・骨盤・背骨などを含む、体の中心です。
多くの人は、下記のような動きの癖を持っています。
- 腕を使うとき、体を固めて手先だけを使おうとする
- 歩く時、膝から下ばかりをちょこまか使う
- 筋トレやヨガなどのエクササイズをするとき、腕、脚ばかりが力む
- 体幹はいつも「固めて安定させる」使い方が多い
これを私は末端優位の体と表現しています。
これに対して、しなやかに全身の連動でうごける状態が「中心優位の体」です。
- 表面的な筋肉より深部の構造を使って動く
- 丹田・股関節(骨盤)・背骨といった、体の中心の構造を使って動く
という状態です。
体の中心に位置するこれらの構造がしっかり使えると、あらゆる動きが全身運動になります。
中心の強い力が末端にスムーズに伝わり、末端で力まなくてもパワフルに動けます。その結果、腕や脚から無駄な力が抜けます。
また、体の中心部の身体感覚が色濃くなることで、精神的にも「軸」ができてリラックスできるようになります。
脳の働きとしては、中心を意識することで「身体地図(ボディマップ)」の精度が上がり、運動イメージと実際の動作が一致しやすくなります。
🔹キーワード:軸・丹田・背骨・姿勢統合
🔹日常例:姿勢保持、呼吸の安定、発声・演奏・集中の改善
6. 円:回転運動と「てこ」
自然界に直線は存在しません。
人間の関節運動も、力の流れも、すべてが円運動・螺旋運動として成り立っています。
そして、人間の体も自然界の力学的法則に則って動きます。
そのため、円(回転運動)や骨を使った「てこ」、さらには複数の力の流れを統合させる「ベクトルの合成」といった体の使い方も大切になります。
これは、より身体の使い方を探求したい方、より自然な動きを身につけたい方、運動パフォーマンスをレベルアップさせたい方に必要なものです。
下記にも書いた内容です。
この後半に書いている
— fuka|脳・体・心を整える&鍛える (@fuka_physis) October 2, 2025
「重心移動」
「円(骨での「てこの原理」や合成ベクトルによる力をうまく使う)」
が、めちゃくちゃ大切です。
一般的なエクササイズの世界では指導者でも知らない人が多い。
武道の世界では経験的に知られていても、別の要素(気とか)で説明されることも多い。… https://t.co/Ss2ID4JOnr
神経的には、より高次の感覚・運動を自動化する小脳を中心とした働きを向上させる段階です。
🔹キーワード:回転・循環・螺旋・柔の力
🔹日常例:ダンス・ゴルフ・武道
これらをどうやって身につけるか
JINENボディワークでは、これらの体の使い方を向上させる「原則」を各ワークの中で実践します。
特に最初は「上虚下実」「無心」「つながり」を中心としたワークが多く、次第に「中心」「重心」に関連するワークも行っています。
ただ「円」については高度なレベルになるため、まだコースなどには動画を掲載していません。これについては、武道の動きを用いなければ身につけることが難しいです。
したがって、今後は武道の基本技を実践する中で「円」の原則のレベルまで実践できるように、ボディワークのシステムを発展させる予定です。
この6つの原則は、いわば私たちの身体の働きを、自然の法則(物理)に最適化するためのものといえます。
「上虚下実」で重力と反力を味方にし、「無心」で自然に動き、「つながり」と「中心」で全身を一体にし、「重心」と「円」でさらに動きの質を向上させる。
その理想的な状態を「自然体」と呼んでいます。
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