私は以前もこのサイトの中で記事に書いたが、現代ではおそらく不安や緊張、焦りや疲労、身体的な不調で悩まされている人が非常に増えているのではないかと感じている。特に私が暮らしている東京では、他の地方の人と比べてより身体の緊張が強く、自律神経の乱れ、疲労感など不定愁訴や未病といわれる状態の人が非常に多いように感じる。
さらに言えばネットの発達や、仕事や消費生活におけるシステム化、機械化が非常に進んだことで、人と関わる機会が減っているのも事実だ。その結果、孤独感や対人関係における安心感の少なさ、うっすら対人恐怖症であるような人が今後も増えていくのではないか。
このような問題意識から、今回は安心感について自律神経の働きとともに解説する。ポリヴェーガル理論という自律神経の理論によると、私たちは思考や感情を持つ前に「ニューロセプション」という自律神経の働きにより、身の回りを安全か危険か察知しているという。
この働きに問題があると、身の回りの様々な人や状況を「危険なもの」と判断してしまい、あらゆる状況で不安や緊張を強めることになってしまう。ここまでの内容に心当たりがある方は、安心感と自律神経の働きについて知っておくといいだろう。
安心感と神経の働きとは?
安心感とは?
安心感は、心と体がリラックスし、外部環境や他者との交流において安全やそれに伴う心地よさを感じている状態だ。これは、単なる精神的な状態ではなく、神経系が深く関与している。特に、私たちが安心感を抱いている時、脳や神経系は特定のパターンで働いており、これが心身のリラクゼーションを支えている。
現代社会において、多くの人がストレスや不安を感じやすい生活環境にいるため、安心感について神経のシステムから理解することは、あらゆる人にとって役立つはずだ。
自律神経と安心感の関係
そもそも自律神経は、体内の様々な機能を自動的に調整する神経系で、私たちが意識的にコントロールできない部分を司っており、交感神経と副交感神経で構成されている。交感神経は、ストレスを感じた時や緊張した状況で働き「戦うか逃げるか」の反応を引き起こす。一方で、副交感神経は、リラックスや回復、代謝を促進し、体が安静な状態に戻ることを助ける。
中でも、腹側迷走神経系(副交感神経の一部)は、リラックスや安心感を感じるために大きな役割を果たしている。この神経は、他者との社会的交流を通じて活性化されることが多く、顔の表情や声のトーン、心拍数の調整などに関与している。これにより、他者とのつながりが深まり、安心感が生まれる。
腹側迷走神経系とは?安心感を支える神経メカニズム
腹側迷走神経系の概要
腹側迷走神経系は、ポリヴェーガル理論によって広く理解されている神経系であり、社会的つながりやリラックスを促進する機能を持つとされている。腹側迷走神経は、顔の表情や声帯、心拍の調整に大きく関わっており、他者との安心できるコミュニケーションをサポートする。この神経系は、特に哺乳類において発達し、社会的な結びつきを保つための神経回路として進化してきたと考えられている。
ざっくりと言うと、人間に至るまでの生命体の進化の過程では、背側迷走神経系という原始的な神経のシステムが最初に形成され、それからより活動的な状況に対応するために交感神経系が発達、その後、哺乳類の段階になり生殖活動を中心に社会的活動が必要とされるようになり、腹側迷走神経系が発達したという進化のプロセスがあった。
腹側迷走神経系がうまく働くと、私たちは他者とのつながりを感じやすくなり、心身がリラックスし、外部の脅威に対しても安心感を持つことができる。逆に、この神経がうまく機能しないと、不安感や孤立感が強まり、他者との交流がぎこちなくなってしまうことがある。これは腹側迷走神経系が、社会的交流と深く関わる神経のシステムであるためである。
腹側迷走神経系が与える安心感の働き
腹側迷走神経系が活性化されると、体は「安全モード」に入り、心拍が安定し、ストレスホルモンの分泌が抑えられる。親しい友人や家族とリラックスした時間を過ごした時の、心地よい安心感をイメージしてもらえると分かりやすいと思う。
これは、他者との社会的な交流がスムーズに行われるための基盤となる。たとえば、笑顔や柔らかな声のトーンで他者と接することで、この神経系が刺激され「安全だ」と神経が察知する。そのため、自然に安心感が生まれる。腹側迷走神経系がしっかり働くことで、私たちは社会的なつながりの中で安心感を基盤にしつつ、円滑にコミュニケーションを取ってスムーズな人間関係を築いていくことができるのだ。
逆に腹側迷走神経系がうまく働かないと、社会的な場面で不安や緊張が強くなりやすくなり、社会生活や人間関係で強い不安や緊張を感じてしまうため、社会から孤立したり働くことが困難になることもある。
現代社会が与えるストレスと安心感の欠如
現代社会におけるさまざまなストレス要因は、腹側迷走神経系に大きな負担をかける。忙しい生活や過剰な情報、仕事や人間関係でのストレスは、常に交感神経を優位にし、副交感神経の働きを抑え込んでしまう。
慢性的なストレスや不安、対人関係での緊張が続くと、交感神経の興奮が続いたり、背側迷走神経系による「凍り付き」的な反応が働きやすくなる。腹側迷走神経系が働きにくくなり、社会的交流における安心感が得られなくなる。
つまり、仕事や生活において慢性的なストレスを受け続けると、自律神経のバランスが崩れ不安や緊張を常に感じる状態になりやすい。
安心感を高めるための具体的な方法
身体感覚からのアプローチ
腹側迷走神経系を活性化させるためには、身体的なリラックスを得ることがまず重要だ。ここでポイントとなるのが、身体感覚をしっかりと使うことであり、これは単に深呼吸や瞑想を行うだけでは不十分だ。体の内側、つまり内臓がしっかりと働くことや、日常の中で体の重さや地面からの反発を感じることが大切になる。
私が重視しているのは、自分の体の重さをしっかりと感じることだ。例えば、立っているときや座っているとき、自分の体重がどのように足やお尻を通して地面に伝わっているのかを意識する。加えて、地面からの反発力を感じることで、体全体が自然に支えられている感覚を取り戻すことができる。これにより、体の緊張を解きほぐし、リラックスした状態に導くことができるのだ。
また、身体には反射という自然な反応がある。これは私たちが意識的にコントロールしない無意識の動きで、自然な運動や動きのリズムを生む。この反射的な働きを意識して解放し、それを阻害しないようにすることで、脳による過剰なコントロールを緩めることができる。体が自然に動く感覚を取り戻すことで、心身のバランスを整える第一歩となる。
私が運営している「ひらめき兵法塾」では、こうした身体感覚を鍛えるために、重力や地面の反発を感じ、思考による過剰なコントロールを外すためのトレーニングを行っている。これにより、リラックス状態を身体的に体感し、自然な安心感を得やすくするのが狙いだ。これらは腹側迷走神経系を直接刺激するというよりも、その準備段階となるアプローチだが、体の緊張を解放し、感覚を開くことで、より効果的に腹側迷走神経系を活性化させることができる。
思い込み・抑圧の解除
腹側迷走神経系をうまく働かせるためには、身体的なリラックスだけでなく、心理的な抑圧や思い込みの解除も不可欠だ。多くの人は無意識のうちに「こうしなければならない」「自分はこうあるべきだ」という強い思い込みや自己否定感を持っている。こうした思い込みは、知らず知らずのうちに自己抑圧を引き起こし、心身に負担をかけている。
心理的に抑圧された状態では、交感神経が常に優位に立ち、腹側迷走神経系が働きにくくなる。また、過度な抑圧が続くと、ストレスや緊張が高まり、背側迷走神経系が作動して、凍りつき反応(動かずに感情を抑え込む状態)が発動してしまうこともある。この状態では、どれだけ体をリラックスさせても、深層の安心感は得られにくい。
こうした抑圧の解除には、自分の持つ思い込みに気づき、それを心理的に解放するプロセスが必要だ。例えば、「自分はいつも冷静でなければならない」「人に迷惑をかけてはいけない」というような過剰な自己コントロールの思い込みを見直し、柔軟に自己を受け入れる姿勢を持つことが重要だ。この自己受容のプロセスは、腹側迷走神経系が活性化し、安心感が自然に生まれるための基盤となる。
私が以前書いた記事では、こうした思い込みの解除や自己受容についても詳しく取り上げているが、これは身体のリラックスと同様に、心のリラックスを促し、腹側迷走神経系の働きを正常に保つために重要なポイントだ。
まとめ:安心感のある毎日へ
- 腹側迷走神経系を活性化するには、身体感覚を使ったリラックスが効果的。
- 無意識の思い込みや抑圧を解除し、心理的に自己を受け入れることで、腹側迷走神経系が正常に働きやすくなる。
- 身体と心の両方をリラックスさせるアプローチは、安心感を高めるための重要な要素。
自分の身体感覚に意識を向け、日常の中で「リラックス」を感じる瞬間を増やそう。身体のリラックスを土台に、人と安心して関わる経験を増やしていくことが腹側迷走神経系の安定的な働きに、つまり安心感へと繋がるのだ。
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