【心身の不調の根本にあるもの】自律神経の働きの「間違い」について

神経の働き

自律神経の働きについて、下記のように表現されることがあります。

・交感神経と副交感神経は対になって働き、一方が興奮するときに、他方は抑制的に働く
・交感神経は「闘争・逃走モード」であり、体を活動状態にする。副交感神経は「休息・回復モード」であり、体をリラックス状態
にする

私も便宜上このような表現をすることもありますし、多くのネット上の情報やメディアでの発信もこのような考え方になっています。

しかし、実は「交感神経と副交感神経を対として考える」という考え方は正確ではないのかもしれません。

この根本的な考え方を間違っていると、自分の健康やセルフケアを考える上で正しい行動が選べない可能性もあります。

そこでこの記事では、自律神経の働きについて生物進化の過程から解説します。

進化の過程から考えなければならない理由

そもそも、人間の身体の働きについて考えるためには、進化の過程をたどらなければなりません。

なぜなら、人間は地球上に突然あらわれたわけではなく、原始生物から魚類、両生類、哺乳類、猿という進化の段階を経て、現在のヒトとしての構造や機能を獲得してきたからです。

これを端的にあらわしているのが、生物の構造が入れ子になっている下記のポストに入れた図です。

そして当然、自律神経の働きも進化の過程で獲得したものです。

後に詳しく説明していますが、健康の増進やセルフケアを行う上で知っておくべきポイントは下記のことです。
・副交感神経は個人差が少ない
・交感神経は個人差が大きい

簡単に説明します。

副交感神経は個人差が少ない

そもそも副交感神経は、一般的に身体を休息状態に置き、内臓の消化吸収や回復を高める働きを持った神経です。

この副交感神経がしっかり働かないと、体が回復せず健康を害することになります。

膨大な数の検体の解剖を行ったある研究者によると、人間の副交感神経は、年齢や性別に限らずはっきりと存在し、太い神経であるということです。

ここからわかるのは、副交感神経は生きる環境によって成長したり、衰えたりしにくいようだということです。それだけ人間が生存するための根幹を支える神経であるということです。

これは、実は交感神経と異なる特徴です。

交感神経は個人差が大きい

その研究者によると、交感神経は誰もが副交感神経に対して細く、存在感がないということです。

そして、
・幼児や若く運動量が多い人は太い
・高齢者や肥満の人は細い
という特徴があるそうです。

ここから推測されるのは、発達過程やライフスタイル、運動量によって成長したり衰えたりしやすい神経であるということです。

そのため、交感神経の働きは、しっかりと注意して鍛えなければ衰え、いわゆる自律神経の乱れからくる不調につながりやすいと考えられます。

交感神経の働きとは、
・体温の調整
・心拍数や血圧を上げる
・消化吸収器官(胃腸など)の働きを抑制する
・筋肉を緊張させる
といったものです。

これらの働きがうまくいかなければ、汗、動悸、胃腸の働きや回復力、姿勢や運動の問題などにつながることが分かります。

したがって、成長期はもちろんのこと、大人になってからも交感神経の機能を使う習慣を意識的に持つことが、自律神経の働きを安定させ、健康の土台をつくることになります。

つまり、しっかり運動すること、暑さ・寒さの刺激に体を馴らすこと、日中はしっかり活動的に過ごすことなどが基本となります。

このように、副交感神経と交感神経の働きや太さが異なるのは、進化の過程の異なる段階で、異なるニーズから獲得された機能であるためです。

その進化の過程に興味がある方は、下記の内容も参考にしてください。

生物における「統括」機能の発展

簡単に生物の進化の過程を解説すると…

ホルモン中心の統括の時代

そもそも、原始的な単細胞生物は、1つの細胞で「生きる」ためのすべての機能を担っていました。

しかし、地球上の環境が激変し、それまでの単細胞生物の構造のままでは生きていくことが難しい個体があらわれていきました。

そのため、一部の単細胞生物は進化して、体の構造を「生きていくための内部の調整(代謝)」と、周囲の環境にあわせて体を移動させる「運動」の機能を担う部分に分化させました。

そして、この「代謝」と「運動」をバラバラにではなく、1つの機能として統一するために「統括」という機能も生まれました。これが、人間でいう「脳や神経」の働きになりますが、初期の生物はホルモン分泌が「統括」機能でした。

ホルモンから神経の統括への進化

それがやがて、クラゲ的な生物の段階を経て、魚類的な生物の段階に至り、という進化の過程の中で、より複雑な「運動」を求められるようになりました。

そのため、より複雑な「運動」を行える体の機能(強い骨格、柔軟な筋肉、それらを動かす筋肉、部位としてのヒレなど)を複雑化させました。

そして、より複雑な「運動」をするということは、その複雑な運動を支える「代謝」を行えなければならなくなったため「代謝」の機能、つまり内臓の働きや血液の循環などの機能もより複雑化しました。

このように、複雑な「運動」と「代謝」を支えるために、全身を一体的に働かせるための「統括」のための神経が発達しました。

これがクラゲ的段階から、魚類的段階への進化でした。

まずは副交感神経が発達した

ここで重要なのは、現在「交感神経と副交感神経」と対であらわされることが多い自律神経ですが、進化の段階としては別の時代に発達した神経だったということです。

実は、生物として最初に発達したのは、副交感神経だったと考えられています。

私たち人類に至る進化の流れの中で、魚類の段階では、水中での激しい運動を行うために全身の筋肉を使うことが求められ、それが現在の私たちの体でいうところの「感覚神経」「運動神経」(2つまとめて体性神経という)でした。

そしてさらに、運動中のエネルギーを素早く供給することなどが内臓に求められました。そのため、この活動時に内臓の働きを活発にする機能は、主にホルモンによって行われました。

つまり、ホルモンの分泌によって内臓を中心とした体の活動状態が維持されたのです。

一方、それだけ活動量が増えたということは、栄養を消化吸収して、よりしっかりと休息することも必要となりました。

そのために、内臓、特に消化吸収のための器官を積極的に働かせるための、体のコントロールが必要とされました。

こうして、主に消化吸収器官を働かせるために発達したのが、副交感神経でした。

このように、神経の機能は、体をより活発に動かすための「体性神経」と、休息時にエネルギーを吸収するための「代謝神経としての副交感神経」とが対になって発達したのでした。

この時代、まだ交感神経はそれほど発達していなかったと思われます。

ある研究者の解剖によると、現代の魚類でも、副交感神経はしっかり存在する一方で、交感神経の存在はほとんどないそうです。

両生類から哺乳類の段階で交感神経が進化した

では、交感神経はいつの時代に発達したのでしょうか。

それは両生類から哺乳類の段階だったと思われます。

この時代、
・重力がダイレクトにかかる地上での新たな「運動」を行わなければならなくなった
・水中より温度変化が激しい地上での、体温調節の必要が生まれた
という理由から、より体を活動状態におき、かつ体温調節するための機能を担う交感神経が発達したのです。

このように、副交感神経と交感神経は、それぞれ別の時代において、別の環境の変化からの要請にこたえるために獲得した機能であり、進化の過程からみると別の機能なのでした。

まとめ

まとめると、
・副交感神経は、いわば「代謝神経」として、運動をになう「体性神経」と対になって獲得したもの
・交感神経は、それまでホルモンによって行われていた「体を活動状態にする」という働きを代わりにになうものとして、もっと後の時代に獲得したもの

ということになります。

このように異なる時代に、異なるニーズから獲得された神経であることを考えれば、副交感神経と交感神経を対のように考えるのは問題があるとわかります(解剖学的にもまったく異なる場所から出る神経でもあり、この点からも「対」の関係と捉えにくいです)。

一般的な健康情報は、この点を単純化して説明してしまっていることが多いです。

そのため、その間違った考え方をベースに導き出された健康法、メソッドなども間違いを含んでいる可能性があることに注意しましょう。

参考
綜合看護「看護のための生理学」瀬江千史

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