姿勢や動きをよりよく向上させる、楽に体を使う、スポーツのパフォーマンスを上げる、頭の働きを明瞭にする、思考力を高める、メンタルの落ち着きを得る、、
このような体の多面的な機能をベースアップさせる運動法が、私が指導・発信しているJINENボディワークです。
このボディワークの最新バージョンでは、体の機能を向上させるステップとして「生(せい)→這(はい)→動(どう)→技(ぎ)」という4つに整理しています。
このステップは「ヒトにいたるまでの進化」と「成人に至る人間発達」に対応したものです。
そもそも、人間の体は突然いまの形になったわけではありません。
何十億年もの進化と、私たち一人ひとりの誕生から成人に至る発達の積み重ねによってできています。
この進化と発達の過程で、私たちは身体の複雑な機能を基礎的なものから発展的なものへと、積み重ねるように獲得してきました。
これを再獲得するステップとして構成したのが「生(せい)→這(はい)→動(どう)→技(ぎ)」の流れです。
それぞれの段階は、単なる運動のステップではなく、神経の発達段階を再現しています。
JINENボディワークでは、この「進化と発達の階層」をもう一度たどり返すことで、脳・体・心の働きを統合し、本来の自然な機能を取り戻していきます。
1. 「生」生命のリズムを整える
【キーワード】自律神経/安全感/内受容感覚
この「生」の段階では、まず体の内側の働きを整えることから始めます。
呼吸、心拍、内臓の動き、体温、リズム。これらはすべて自律神経系によってコントロールされています。
たとえばストレスが続くと、交感神経が過剰に働き、体は常に「戦闘モード」に。
その状態では学習も運動も本来の力を発揮できません。
「生」は、まずこの自律神経のモードを「戦闘モード」から「安心・安全の神経モード(ventral vagal state)」へと変化させる段階です。ポリヴェーガル理論でいう「社会的交流システム」が働き始めることで、呼吸が深まり、体のセンサーが開き、学びやすい状態になります。
言い換えれば「生きる」ための基本条件を整える段階です。
ここでは静的なリラックスワークや呼吸法、体感覚を丁寧に観察する練習を行います。
🔹対応する進化の段階:単細胞~原始多細胞生物(生命維持機能)
🔹対応する脳の機能:脳幹、自律神経ネットワーク
🔹対応する発達:胎児期~新生児期
🔹対応するコース(会員向け):リラックスワーク
2.「這」原始的・基礎的な運動・感覚機能を獲得する
【キーワード】固有感覚/前庭感覚/姿勢反射
次の段階「這」は、赤ちゃんの発達過程や、魚類、両生類の動きに対応します。
赤ちゃんは、まず首を持ち上げ、寝返りをし、四つ這いで移動します。
初期の陸上動物は、地を這う単純な動きから、陸上生活を可能にする動きを少しずつ獲得して進化してきました。
この基礎的な一連の動作は、姿勢制御・バランス・体幹の安定を育てる基盤になります。
ここで重要なのは、感覚の発達です。
体の位置を感じる「固有受容感覚」、動きを感じる「前庭覚」、接触を感じる「触圧覚」など、いわゆる一次感覚の統合が行われる段階です。
これにより、脳の中に「身体地図(ボディマップ)」が作られます。
これが不十分だと、どんなに筋トレをしても姿勢や動きは安定しません。
また、大人になってからも、この基礎的な感覚(一次感覚)の働きが運動不足、ストレス、不摂生、偏った運動習慣などで乱れます。すると、どれだけ普通の運動をしても体の不調や緊張が抜けなかったり、怪我をしやすい非合理的な動きの癖がなおらなかったりします。
つまり、これは赤ちゃんにだけでなく成人にとっても必要な段階なのです。
したがって「這」の段階では、転がる・揺れる・支えるといった動きを通じて、神経的な安定の基盤を再構築します。
🔹対応する進化の段階:魚類・両生類(脊椎動物の基本運動)
🔹対応する脳の機能:脊髄・小脳虫部・脳幹
🔹対応する発達:乳児期(寝返り・這い・立ち上がり)
🔹対応するコース(会員向け):骨格コントロール
3. 「動」感覚・運動の機能の発展と重心コントロール
【キーワード】多感覚統合/重心移動/最適制御
「動」は、人間が直立して動き始める段階です。
進化の段階でいえば、躍動的に動く進化した哺乳類、特に猿類や人類に至る段階に対応しています。
歩く、走る、跳ぶ、投げる、このような人間的な動きのすべては、多様な感覚を統合して処理する感覚統合・脳の働き、全身のしなやかな連動能力、重心のコントロールに基づいています。
つまり、進化の段階においても人間の発達過程においても、より複雑で高度な動きができる段階といえます。
それを可能にするのは「生」「這」に対応した機能を、しっかり積み重ねて土台ができていることです。
その上で鍵になるのは、多感覚統合です。
視覚・前庭覚・固有感覚など、異なる感覚情報を脳が統合することで、姿勢や動きの高度なコントロールを可能にします。
このとき小脳と頭頂葉が協調し、体の動きをリアルタイムで修正しています。これは神経科学では「フィードバック制御」と呼ばれ、人間が転ばず、安定や不安定を使いこなして合理的に動くための精密な制御メカニズムです。
「動」の段階では、歩法・重心移動・四足動作などを通して「重力と友達になる」感覚を育てます。
筋力ではなく、構造と反力を使って効率的に動ける体をつくる段階です。
🔹対応する進化の段階:哺乳類(重心制御・歩行)
🔹対応する脳の機能:小脳半球・頭頂連合野・基底核
🔹対応する発達:幼児~児童期(歩行・走行・協調動作)
🔹対応するコース(会員向け):ボディコントロール
4. 「技」身体知を統合する段階
【キーワード】内部モデル/予測制御/運動イメージ
ここまでの「生」「這」「動」は、いわば動物的ヒトとしての体の働きの話でした。ここまでの内容だけでも、健康や一般的な運動機能の向上には十分役立ちます。
しかし、人間は動物としての「ヒト」であると同時に、より高度な動きを文化として積み重ねてきた「人間」でもあります。
特に日本では、古来から古武道、能などの芸、大工などの工芸の世界を中心に、豊かな身体文化が積み重ねられてきました。その大部分は時代の変化とともに失われましたが、その一部は今でも継承されています。
私自身、古武道である兵法二天一流という二刀流の剣術を中心に武術を修業し、免許皆伝師範として指導・継承活動を行っています。まだまだ途上ではありますが、日本の文化の中で蓄積・発展されてきた身体文化を身につけるべく努力してきました。
このバックグラウンドから「技」という段階を4つ目につくることにしました。
これは、重力や地面反力といった「外力」を活用する動き、骨格を活用した「てこ」「遠心力」などの力学的に合理的な動きを身につける段階です。
この段階は、より体の使い方を探求したい方、運動パフォーマンスを向上させたい方、武道を通じて心身の円熟を目指したい方に向けて指導していきたいと考えています。
この段階では、身体知=体を通した知性の発達が起こります。
武道や芸術、スポーツなどの高度な技では、身体が「考える前に動く」ようになります。
これは「運動の内部モデル」が脳内に形成されるからです。
小脳と前頭前野が連携し、「こう動けばこうなる」という予測を高速で行う。
その結果、意識的な努力を超えた、自然な動きが生まれます。
同時に、意識(心)はより静まり、不動心が生まれる。
つまり「技」とは、身体的にも精神的にも自律的な知性が発揮される段階なのです。
🔹対応する進化の段階:人類(道具使用・社会的知能)
🔹対応する脳の機能:前頭前野・運動野・頭頂葉・小脳皮質
🔹対応する発達:青年期以降(抽象思考・戦略・創造)
🔹対応するコース:今後制作予定
まとめ:積み重ね直すということ
「生・這・動・技」は、単なる運動レベルの違いではなく、神経を中心とした体の機能の再構築の道筋です。
一般的なスポーツ、エクササイズの多くは、複雑な動きや技術を中心とした「動」の段階ばかりであり、「生」や「這」の基礎的な層を飛ばしてしまいます。
しかし、高次な機能は必ず低次の安定の上に成り立つものです。
そのため、JINENボディワークでは生命の基盤から積み上げ直すことで、より確実で、より高いレベルまで到達可能なシステムにしています。
また、重力下での力学的に合理的な動きである「技」の段階は、暗黙知としてセンスのある人しか身につけられないものでした。これも、JINENボディワークでは、誰でも身につけやすいステップとして構築しています。
この積み上げの先に生まれるのが、自然体の身体、身体知の脳、不動心の心です。
これらの働きは人間が「生きる」ことの根幹であり、これらを身につけた先にあなたの本来の能力の開花が待っているはずです。
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